
安定経営のヒントは治水学
今から60年程昔のこと、小学校6年生の遠足で生まれて初めて佐渡から本土へ渡り、信濃川の支流である寺泊の大河津分水を見た。
信濃川といえば日本第3位の流域面積を誇る一級河川だ。そんな大きな川に何故、わざわざ別の流れをつくったのだろう。
上流から河口まで道筋が一本の河川は、川幅が広く底が深く見えていても、そのままだと大雨の度に氾濫し、周辺の人々は大きな被害を受ける。そこで先人たちは長い年月と苦労の末に支流をつくり、大水を分散した。
支流づくりや護岸工事などで河川を安定させる「治水」を、私はこの時初めて知った。
私のやってきた安定経営術は「治水の知恵」によく似ている。
それは、大河津分水に象徴される支流づくりだ。
河川本体を本業とするなら、支流は社内における新事業にたとえられるだろう。溢れる仕事や人財、あたためてきた企画や技術を活かす為、会社に余裕があるときに投資して新事業をつくり上げる。
これらの事業は、本業に関わるものを出発点として始めは併走し、徐々に方向を変えて独立した流れをつくっていく。
具体的には、手書きPOP全盛期に企画したデジタル機器によるPOPのシステム化、約15年前から始めた郵政省(当時)の仕事などなど、私は新しい事業や別のクライアントへの進路づくりを怠らなかった。
実は、これらの支流が真価を発揮するのは不景気の時だ。
本業やひとつのクライアントに頼りきりでは、景況のあおりを受け、ジリ貧する業績に指をくわえながら倒産してしまうかもしれない。
しかし何本かの支流があれば、万が一本業たる河川に渇水が生じてしまったとしても、持ち堪えることができるのだ。
現在は特に、民営化されて一気に仕事が増えた日本郵政グループの事業がめざましい。厳しい景気の最中にあるクライアントの影響を受ける本業を超えかねない勢いにまで成長している。
波のある景況や各クライアントの状況に惑うことなく、ブレない姿勢で仕事をつくり続けてこられているのも、これまで積極的につくり上げた支流があればこそ。
そして今、本業と数々の事業で手堅く得てきた利益を元に、私はまた新しい支流の可能性を模索している。
支流(本業を活かした新事業)をつくり、河川(本業)を安定させること…幼い日の疑問をきっかけに大自然に教えられた「治水の知恵」は、赤字を出さない原点のひとつとして私の経営人生に深く根付いているのだ。
(2009年10月16日)
